開催中の企画展に合わせて、10月31日(日)に記念講演会を行いました。
記念講演会は、「低湿地遺跡からわかること」と題しまして、大田原市なす風土記の丘湯津上資料館長の上野修一氏にお話しいただきました。たくさんの方にご参加いただき、ありがとうございました。
上野氏は、元当館学芸部長で、日本を代表する縄文時代の研究者の一人です。以前から低地に所在する遺跡の重要性をご指摘されていました。
今回のテーマである「低湿地遺跡」という言葉は聞き慣れない方も多いかと思います。水が豊富な土中は空気に触れにくく、酸素不足となります。そのため、腐食が進みにくく、植物の遺物が残りやすいのです。一般的には、このように植物の遺物を多量に含む粘土や、砂などからなる遺物包含層が残されている遺跡のことを低湿地遺跡と呼んでいます。
栃木県内では、小山市寺野東遺跡と鹿沼市明神前遺跡が全国的に知られた低湿地遺跡として挙げられます。
上野氏は、大学一年生の頃、低湿地遺跡(貝塚)で全国的に有名になった福井県小浜市鳥浜貝塚の発掘調査に参加されていました。当時の発掘調査の様子や現場の裏話などをお話しいただきました。
鋼矢板のすぐ外に迫る水面(1975年)
福井県若狭歴史博物館
画像提供 若狭三方縄文博物館
みなさん、この写真に写っているボーダーTシャツの後ろ姿、誰かお分かりになりますか?
上野氏と今回の講演会の打合せをして、図録をご覧になっていたその時、突然「ん?この服、この後ろ姿はおれだ!」「この服を着ている写真がある!」と言いました。
私たちは何も知らず、偶然、上野氏が写っている写真を選んでいたようです。「これは何かの引き合わせかもしれませんね」などと話しながら、皆で本当にびっくりしました。
この写真は約50年前に撮られたものです。当時18歳の上野氏ですがイケメンですね~
また、恩師の故渡辺誠先生が調査された、京都府舞鶴市桑飼下遺跡についてもお話し頂きました。特殊泥炭層の分析に、地質学・花粉学・動物学・植物学などの分野が参加し、学際的研究を導入した遺跡です。総合的な縄文時代の古環境復元を目指しました。その後、鳥浜貝塚の調査にも導入されました。
渡辺誠先生は先月、大変残念ではありますが9月14日に他界されました。渡辺先生との思い出話をとても懐かしそうにお話しされていました。弟子入りされた時のお話しや、4度の禁足のお話しなど思い出が尽きません。特に縄文時代の植物食に関するご研究は、多くの考古学研究者に影響を与えてきたのではないでしょうか。
近年、低湿地遺跡の調査件数の増加ともに、考古学研究と合わせて、植物学・動物学・民俗学など他分野の研究が取り入れられるようになってきました。総合的に研究することによって、当時の人々のくらしを考える上でより多くの手がかりを得られるようになりました。改めて、低湿地遺跡の発掘調査から得られる情報の多さと、その重要性が分かりました。今後、さらなる発見と調査研究が進むことを期待したいです。
今後も関連講座が予定されています。
11月7日(日)13:30~15:30 定員150名 要予約 聴講無料
関連講座②「栃木の貝塚研究最前線」
講師:栃木県考古学会顧問 竹澤謙 氏
栃木県考古学会会員 細谷正策 氏
実際の発掘調査や研究について、直接お話が聞ける貴重な機会です。
また、以下のイベントもありますので、是非ご参加下さい。
11月13日(土) 14:00~14:30 定員20名 要観覧料
11月23日(火・祝)14:00~14:30 定員20名 要観覧料
スポット展示解説
企画展示室に直接お集まり下さい。部分的に解説いたします。どこを解説するかは当日のお楽しみです。
11月21日(日)13:00~17:00 要観覧料
トークフリータイム
資料を見て気がついたこと、感じたことなどを話しながら、気兼ねなく展覧会を楽しんで頂ける時間帯です。
みなさまのご参加をお待ちしています。
(人文課 中山)
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