8月26日に、開催中のレッドデータブック展の記念講演会が行われました。「消えゆく生物からのメッセージ ~菌類(きのこ・カビ・酵母)を例に~」と題して、国立科学博物館の細矢 剛先生(植物研究部グループ長)にお話しいただきました。
酵母はふつう目に見えませんが、きのこやカビもまた、見えているのは体のほんの一部に過ぎません。きのこやカビの本体は、地中などに張り巡らされた、目に見えない「菌糸」なのです。写真のきのこは落ち葉を分解するきのこですが、きのこの下には菌糸が白く広がっている様子がわかります。
目に見えないため見過ごされがちな菌類ですが、自然界で生きている菌類の多様性のバランスが崩れると思いもよらない事態に陥る危険性を孕んでいます。細矢先生は、「植物の成長を助ける菌類(菌根菌)は、一種類よりも何種類もあるときにより効果を発揮する」といった具体例を示しながら、目に見えない菌類の多様性の大切さを話されました。
そんな菌類ですが、本体が肉眼で見えないため、動植物のように個体数を数えてどれくらい減っているか評価することはとても難しいのです。そこで、「きのこ」といった肉眼で見える部分の発生情報を集め、増減の傾向を調べます。より正確なデータをとるために標本を長い年月に渡りたくさん集めねばなりませんが、菌類研究者は非常に少なく、集められるデータには限りがあります。そこで、それぞれの博物館などがもっている情報の統合データベースを活用しています。細矢先生は、代表例として地球規模生物多様性情報機構(GBIF)やサイエンスミュージアムネット(S-Net)を紹介されました。そして、忘れてはならないのが市民科学者の方々との連携です。「レッドデータブックとちぎ2018」にリストアップされた45種の菌類にも、県民の方々が採集された種類が多数含まれています。
今回のご講演のタイトルには「菌類」とありますが、内容は生物全般に通ずる多様性の意義を振り返り、減少する生物を評価する過程、そして生物多様性情報を共有するすべを知る、またとない機会になりました。細矢先生、ありがとうございました。
(自然課 山本)
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