ホームページ本体でも紹介しているように、博物館では、現在「新発見・再発見・初公開-人文ミュージアム2009-」という企画展を開催しています(6月15日まで)。
今年度最初の「考古部門活動記録」では、考古系の展示資料について、やや詳しく紹介してみましょう。
展示会場入り口
はいってすぐが歴史部門の展示で、美術工芸、民俗と続き、考古部門は一番最後になります。
考古部門の展示ブース
右側の展示スペースを見たところ。主に藤岡町にある藤岡神社遺跡と後藤遺跡出土の資料が展示されています。藤岡神社遺跡出土資料は国の重要文化財の指定を受けています(藤岡町より寄託)。
土製耳飾りの展示
ここでは、両遺跡の耳飾りを目一杯展示してみました。これだけ並んでいると圧巻です。耳飾りも含め、両遺跡出土資料がこんなに展示されるのは初めてです。
藤岡神社遺跡出土土製耳飾り
耳飾りは全国屈指の出土数を誇っています。
後藤遺跡出土土製耳飾り
藤岡神社遺跡ほどではありませんが、後藤遺跡からも大量に出土しています。
後藤遺跡出土土偶
「後藤系列」山形土偶の標識資料です(写真左下の一群)。
藤岡神社遺跡出土土偶
右下の土偶は座産を表現しているという見解もあります。また、左下2点のミミヅク土偶は、この地域独特の「顔つき」をしています。
土錘・石錘
両遺跡から大量に出土していて、網による漁労が盛んに行われていたことがわかります。
動物形土製品
手前5点が藤岡神社遺跡出土で、奥の1点が後藤遺跡出土。左の大きなものはイヌを、それ以外はイノシシなどを表現しているといわれています。
考古部門の展示ブース
今度は左側の展示スペースです。ここには主に栃木市にある向山遺跡の遺物を展示しています。
向山遺跡出土資料
向山遺跡は、旧石器時代から縄文時代にかけての、チャートの原産地遺跡です。今回は縄文時代のチャート製石器と、それを作るための工具類を展示しています(栃木市教育委員会より借用)。
写真左はじに見えるのは、土層断面の剥ぎ取りパネルです。近くで見ると土よりも石の方が多いことがわかります。石器を作るときに出た石屑などが堆積したもので、厚いところでは1m以上にもなります。
両面加工石器
石材はチャート。これ以上加工の進んだ石器が出土しないので、この石器がこの遺跡における石器製作活動の最終生産物(あるいはそれに近い段階のもの)と考えられます。大きさや形状から見て石鏃の未成品かも知れません。
タガネ状石器
今までは打製石斧の未成品と考えていました。しかし、その後詳しく調べてみると、この石器がチャートを掘削する際のタガネとして使われていた道具であることがわかり、新たに「タガネ状石器」と名付けることにしました。企画展のタイトルでいうところの「再発見」資料です。
タガネ状石器
ひとつ前の写真の前列右端から2番目の資料。石材は流紋岩類。長さ20㎝、重さ3㎏ほど。縁辺に使用によってできた潰れや階段状の剥離痕が見られます。これらの使用痕が、この石器の大きな特徴です。
タガネ状石器
前列右端から3番目の資料。上の石器よりややサイズが小さく、長さ15㎝、重さ1.3㎏ほどです。石材はホルンフェルス。ホルンフェルスも流紋岩類も向山ではとれないので、どこかで採集し、山の上まで持って来たと考えられます。
野澤岩蔵コレクション(個人より借用)
ブースの奥で展示しています。姿川村の幕田(現宇都宮市)出身で、市内の小学校で訓導を務めた野澤岩蔵氏(明治23~昭和38)が収集した資料で、昭和35年に宇都宮市重要文化財に指定されています。
写真は「採集記」と「原稿」。この他にも壬生町上田遺跡や宇都宮市江曽島嘶遺跡出土の遺物も展示しています(いずれも初公開資料)。
「採集記」
野澤氏が、昭和9年から27年までの19年間にわたって記した遺物採集の記録。
「原稿」
野澤氏の著書『郷土』や『先史考古図』で使用された版画や原稿が綴じてあります。写真左は版木。
擦切磨製石斧(個人より借用)
単体ケースで展示しています。那須塩原市の甘湯沢近くにある落合坪遺跡出土。本県では日光市小佐越遺跡に続き2例目の出土。ただし小佐越遺跡出土資料は欠損品で、完形のものとしては唯一の資料です。東北地方との関係を考えるうえで貴重な資料といえます。これも今回初公開。
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いかがでしたでしょうか。まだまだ紹介していない資料もたくさんあります。また他の部門でも、新発見や初公開の資料が多数展示されています。今回の企画展は、いわゆる収蔵品展とは違ったコンセプトに基づく展示です。ぜひお越しになっていただければと思います。
(考古部門 上野・森嶋)
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